人間ドックに入ったついでに、念のために頚部のMRI検査を受けた。経験のある方たちはご存じの通り、MRI検査はベッドにベルトで固定され、検査装置の中の狭い円筒状のスペースに送り込まれる。「閉所恐怖症の方は申し出て下さい」との注意書きが検査室に張り出されているくらい検査装置の中のスペースは狭くて、顔の前に装置の壁が迫り、しかも頭のてっぺん付近でカンカンカン、キンキンキンと高く不快な音が鳴り続けるという最悪の環境である。重病人が移動ベッドで運び込まれて無意識の中で検査を受ける状況ならいざ知らず、健康な人間が念のために検査を受けるという状況では最悪の環境なのだ。健常者対象の検査装置としては到底受け入れられない未完成の装置である。
その日、私を担当した若い検査技師は「30分弱で終了します。絶対に動かないようにお願いします」と言って、ベルトで私の身体をベッドに固定して隣のモニター室に消えた。さあ、それからの30分が大変だった。私は別に閉所恐怖症というわけではないが、カンカンカン、キンキンキンという不快な音の絶えない、しかも狭い狭い密室にベルトで固定されているのである。しかも、「絶対に動かないで」と言われている。いつもは何ともない鼻の奥で、鼻汁とまでは言わないが実態のない何かがつかえるような感じがして、鼻をクンクンといわしたくなるような衝動に駆られる。息苦しくもなる。次に鼻の頭が痒くなってきた。掻けないとなると余計に無性に痒くなる。あー、もうダメだ。ギブアップして「止めてくれー」と叫ぼうか? いや、男の子じゃないか、もうちょっと頑張ってみよう。でも、あとどのくらい辛抱したらいいの? 30分って言っていたが今はもうどのくらい経過したのだろう? 10分は経っているよ。いやー、いいところ5分じゃない。だとしたら、あと25分も? じゃダメだ。ギブアップかなー。他の人は良く辛抱できるのだなー? よし、他のことを一生懸命考えよう。ゴルフだ。太平洋クラブ御殿場の18ホールを想像する。ここは距離のあるパー5。ボクの腕では2オンは不可能。だと言って2打を正面にレイアップすると池の前は左足下がりで難しい。カンカンカン、キンキンキン、カンカンカン、あーダメだ。現実に呼び戻された。あとどのくらい辛抱したらいいの? お母さーん、助けてー、、、、、、、、
30分は長い。この環境で30分もじっとするのは残酷だ。そして、最大の問題点は時間の経過が不明なことだ。もし検査技師が、「はい、5分経過しました。あと25分です。頑張って下さい」、「はーい、10分経過しましたよ。あと20分でーす」、「20分経過しました。もう少しですからねー」と言うようにときどき時間の経過を教えてくれたら「よし、あと20分か、我慢しよう」、「よし、あと10分か、辛抱できるぞ、もう大丈夫だ」と安心して頑張れるというモノである。それが検査技師はモニター室に消えたまま何もしてくれない。被験者の心の葛藤など理解していないのだ。30分弱経過して閉所から救出されたときには「参ったー」だった。そこで、ベルトを外してくれた検査技師に、「貴方自身はこの検査を受けたことがありますか?」と質問してみた。「いえっ、ありませんがー、何か?」。そこで、上に述べた体験をお話しし、「時間の経過を教えて貰えたら被験者は大変大変助かるのですよ。私だけじゃないと思います。それをするのに何の設備も要らない、材料費も余計な人件費も掛からない。ただ、検査技師さんの優しい心遣いだけで出来ます。次からやってごらんになりませんか?」と聞いてみた。その検査技師さんはおとなしそうな人で、「そうですね、今まで気にしたことがなかったのですがー、考えます」と率直に受け止めてくれた。実行するかどうかは疑わしいが。
もし、病院がサービス業であるという共通認識が病院スタッフに浸透していたら、上のような心使い、気遣いは職員に徹底していて当然だ。スタッフたちが自分たちの接し方一つで患者様(ボクは患者様ではなく、お客様だったのだが)を快適にする方法を日常活動で探し、改善する活動が日々定着していなければならないのだ。
(次回に続く)
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