病院はもちろんサービス業である。患者の病気を治すというサービスを提供することでその対価を得ているのは昔から変わっていないから、昔から病院はサービス業なのだが、これまでは病院の当事者たちにその意識が薄弱だったことも事実である。そして、その主たる理由は客である患者とサービス提供者である病院当事者の立場に圧倒的な力関係の差が存在して居るからである。すなわち、病気を直してもらいたい患者はお医者様にすがりたい程である。お医者様の態度がむかつくほど横柄で、不親切でも、いまは我慢して「この痛みを止めて下さい」と願っている。その患者を見下ろすお医者様と看護師様から見ると、一人の患者はone of themだ。「こんなの日常茶飯事よ。もっと痛みがひどくても良く我慢できる患者もいるというのに大げさな痛がりようだこと」とウンザリだ。こうして、圧倒的に不利な立場の患者と、圧倒的に有利な立場のお医者様・看護師様の構図が何百年と続いてきたのだ。以前は会計係などのスタッフまでもが患者に横柄な言葉を使っていたものだ。最近は病院間の競争が激化して、サービスの向上が進みつつあり、まずスタッフ部門はかなりの程度に患者に対する態度が改善されてきている。病院の駐車場の看板も、以前の「患者用駐車場」から「患者様用駐車場」に修正する病院も多くなってきた。
しかし、圧倒的に有利な立場であり続けるドクターたちはまだまだお山の大将的センスが抜けきらない。施術という言葉が有るとおり医療は施しであり、施す側(上)と施される側(下)には大きな谷があると思っている。こういう医者は「高名な私が執刀して上げましょう」と、手術をして多額の心付けを受け取ることを憚らない。
さて、「明確にサービス業だという認識がないと、病院は最早やっていけませんよ」というのが本校での私のメッセージである。その理由はこうだ。予防医学が進歩すると共に病院に足を運ぶ客層が変わってきた。人間ドックはもちろんだが、最近は通常の人間ドックにPET/CTを組み合わせたガン検査など付加価値の高い、従って高額料金で健康保険の対象外の検査が病院の高収益事業としてクローズアップされ、多くの病院がそのサービスに力を入れている。
が、問題は従来の「強い立場」に固執するドクターや看護師という病院側の受け入れ態勢である。何の自覚症状もない健常者(少なくとも本人はそう思っている)がその健康を維持するために様々の検査を受けるために病院を訪れる場合は自分が弱い立場だとは思っていない。病院に来る直前までは部下たちにガミガミ言っていた社長もいるだろうし、医者が医学博士なら客は工学博士でMBAなんてうるさい奴もいるだろう。そういう客に従来の横柄な態度では商売にならない。
実は先日、ある大学病院でPET検診を受けた。PET検診は鹿児島の厚地先生の病院で受けることに決めているのだが、この大学病院のPET導入計画に際して、16億円の出資会社を紹介してくれと言う依頼を受け、紹介した会社が出資を決めて検査病棟が竣工し、サービス開始に際して、紹介の御礼に無料にてPET検診を致しますということで遠いところだが検査を受けに行って来た。ところが、検査が終わると、「検査結果の説明のために2週間後に再来院して下さい」と来た。「えっ、PETの場合は検査が終わった今の段階で結果が出ているはずですが。それを2週間後に再来院せよとは、しかも都内からこんなに遠いところへ又来いというのはおかしいのではないですか」と看護師にクレームを付けると「規則ですから」と取り合わない。上述の厚地病院では検査後直ちに我々夫婦を診察室に呼び入れて検査結果の説明があったものだ。それと比べても納得できないし、出資者を紹介したという縁もあるので他人事とは思えず、「センターの責任者に会わして欲しい」と申し入れた。どうも看護師も同じ問題意識があったのではないかと思える節があるのだが、とにかく看護師が嫌がるセンター長を引っ張り出してきたと感じだった。センター長のドクターは言下に「PET検査では患者さんの体内にポジトロンという放射線物質を注入して居るので、検査後直ぐに対面して検査結果を説明するのでは患者の身体から放射される放射線に医者が被爆して危険ですから後日の来院をルールとしております」という。
さて、みなさんはどう思いますか、西岡の反論は次回に譲ります。
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