2006年4月24日月曜日

西岡郁夫の起業家インタビュー 第3回 『坂本 孝さん』

ブックオフコーポレーション株式会社 代表取締役社長 坂本 孝さんはEOY-JAPANの2004年度日本代表である。ご略歴は文末にご紹介しました。

――― 会社説明会 ―――

西岡 まずは、人を育てる名人の坂本さんらしいお話が聞きたいですね。
坂本 実は、明日、大阪で「坂本孝 就職活動講座」という就職セミナーがあるんです。普通、この手のセミナーには、「ブックオフコーポレーション」の企業名が冠に付くのにね。明日は、私がこれまでいろいろな学生と接してきて感じたこと、気付いたことをお話するつもりです。でね、そういう場に行くと、「会社説明会へは何回行きましたか?」って聞くんです。「20回以上」と答える人が出てきたら、「そろそろ今年も就職戦線のピークにきたな」と思うんですよ。それが東京だと、3月か4月でピークを迎えるのに、北海道だとゴールデンウィークが明けた頃なんですよね。桜前線みたいですよ。ところで、当社は今年16期目を迎えますが、うちの会社説明会は必ず私がスピーチすることにしているんです。


西岡 へぇー、人事担当役員じゃなく坂本社長自らですか。
坂本 会社説明会で社長が話をしないのは間違っていると思うんですよ。人生の中で一番大切な選択をしようとする人に対して、社長が本音で語らない会社なんてヘンでしょう? 
西岡 確かに、人事部長なんて普通コンサバティブな人のサンプル みたいだから学生の心を打つ訳がないですよね。
坂本 ああいう場で話す人は、笑っちゃいけないんでしょう? きっと、賢そうに権威があるようなフリをしていなくちゃいけないんでしょうね。
西岡 そういう人が、「ウチに来い!」と言っても、ちっとも迫力ないのにね。
坂本 私は「ブックオフには人事部なんてつくらない」と宣言しているんですよ。というのも、うちは店舗が主役の商売でしょう。だから、人事権はすべて現場の責任者に与えて、現場を知らない人事部の人間には人事に関して「あーだ、こーだ」とは言わせません。社員のキャリアパスに応じたジョブローテーションを組んで成長させていこうと思っていますから、人事部などなくても十分にやっていけるんですよ。
西岡 誰が採否を決めるんですか?
坂本 会社説明会で私がスピーチした後で、入社数年目の若手社員に「つらい」と思った体験や本音を吐露させるんですよ。すると、半分くらいの人たちが「そんなにつらい会社なら、止めておこう」となるわけ。西岡 なるほど、そこでやる気のない奴をスクリーニングするわけですね。坂本 そうです。その後のグループ面接や個人面接に、僕や常務が立ち会うことはありません。そこは、現場の責任者である店長に任せて、「1年後には、立派な店長になりそうだ」と思った人を最終の社長面接に残すのです。
西岡 ほほぅ。ということは、店長が「この人なら、自分が成長させることができる」という判断をした人を選ぶわけですか。
坂本 そうです。しかも、うちの採用試験には「成績証明書の提出」も、「筆記試験」もありませんから、学生のウケがいいんです(笑)。『東洋経済』や『週刊ダイヤモンド』などで、よく「入社したい企業ベスト500社」みたいな記事があるでしょう? うちは250位くらいに入っていますからね。
西岡 それは面白いですねー。そもそも僕は、大企業の「人事部主導の採用方式」は間違っていると思うんですよ。なぜなら、コンサバティブで事業責任のない人事部が採用すると、事業に貢献できそうな人よりも安全な人を取ります。安全策を優先するので学歴を尊重するわけですよ。つまり、有名大学卒を採っておけば、後で何か問題があっても自分が責められないという発想です。インテルは、ビジネスユニットの長が予算の範囲で自分のビジネスに適切と判断した人材を採用しています。だから学歴を見ません。人事部に似たようなHR(ヒューマンリレーション)という部署はありますが、面接の時間と場所のセッティングをしてビジネス長に引き合わせると退室します。ところで、坂本さんがそんなふうに人事の仕組みを考えるようになった原点はどこにあるのでしょう?
坂本 僕は、学校を出てから今まで、自分の判断基準という「ものさし」以外で会社勤めをした経験がないんですよ。だから、会社に総務部や人事部があるということすら知らなかったんですよ。で、「会社の最適化」を考え続けていたら、今のようなカタチになっただけ。
西岡 なるほど。会社の仕組みに関する旧い既成概念がなかったんですね。企業や組織に対する先入観を持たずに、正しいと思う道を進んできたら、今のようなカタチになった。
坂本 そうです。

――― 創業のきっかけ ―――

西岡 それにしても、坂本さんはずっと中古ビジネスをされていますが、なぜですか?
坂本 そもそも私は慶応大学を卒業するとき大手広告代理店へ入社するつもりでした。ところが都合で、父が経営していた精麦会社に入って、経営を手伝うことになりました。当時は「貧乏人は麦を食え」なんてことが盛んに言われていた時代で、なぜか会社の業績が伸びて、大きな勘違いをしてしまった。「自分には経営能力があるんだ」ってね。
西岡 いい勘違いでしたねぇ。
坂本 それで、オーディオショップを始めたんです。トリオ、サンスイ、パイオニアが一斉を風靡していた時代です。5年間で莫大な借金をかかえて、高利貸しにまで手を出してしまった。年利72%ですよ。それで、どうしようもなくなって、地元の有力者にお願いして、500坪あった実家の土地を買ってもらったんです。それから、借金を返済して余ったお金で音楽教室を始めました。本当は楽器店をやりたかったんですけどね。楽器店というのは、うまくビジネスしていますよね。彼らが音楽教室をつくるのは楽器の見込み客をつくるためなんです。一人の客にオルガンを販売する、しばらく経つとその客はピアノやエレクトーンに買い換える。しかも、腕を上げるために音楽教室に通いながらグレード試験を受ける。ただし、試験に合格するには、それに対応したレベルの楽器を使って練習しないといけない。で、合格した人には、結婚式場のエレクトーン奏者とか、音楽教室の講師とかいった就職の世話までするんですからね。お客さんのほうは、ついつい買ってしまうわけですよ。こんな上手い話ってないでしょう?しかし、資金が少なくて中古ピアノの販売を始めました。
西岡 中古商品はメーカーの価格コントロールが利かない領域で、全部、自分たちで価格を決められるんでしょう。
坂本 中古には業界規正法のような規制が一切ないんです。新品は石油の元締めのようなもので、メーカーが一番えらい。再販制度のある出版業界と似ているでしょう? だから、古い体質の業界ほど中古ビジネスにチャンスが広がるんです。
西岡 メーカーコントロールが強い業界こそ中古のビジネスチャンスあり!
坂本 そうそう。
西岡 それで、神田の街に並んでいるような古本屋を作ったんですか?
坂本 そうしようと思ったのですが、「古本屋のチェーン店をつくるなんて、言語道断だ」と言われました。
西岡 ということは、最初からチェーン展開するつもりだったの?
坂本 そう。30店舗はつくろうと思っていました。ところが、変人扱いされちゃって(笑)。古本屋になるには、まず目利きができなくてはならないんですよ。各店が仕入れた古本を組合で供出し合って、組合のセリで自分の得意のジャンルを買うという目利きが要る構図です。当時、神田・駿河台にある古書会館というところで行われているセリに出たことがあるんですが、実物も見ずに目録で入札なんかできっこない、こりゃまいったと。
西岡 へぇー。それで、目利きをせずに店員さんが簡単なルールに従って買値も売値も決めるという今のようなビジネスモデルになったのですかー。
坂本 そうです。それで、30店舗くらいになったときに、また神奈川県の古書組合に入りたかったのですが、門前払いされました。
西岡 どうしてですか?
坂本 「あなたたちは、目利きでない。雑本を売っている」と。
西岡 雑本!?
坂本 そう。彼らは、小説やコミックのことを「雑本」と言うんですよ。だから、「本の価値を知らないような人に、組合に入られては困る」と。ところが、最近になって風向きが変わってきました。「うちの組合員は、ブックオフを悪く思っていませんよ。なぜなら、私たちの主な仕入先はブックオフですから」と言われました。 
西岡 古本屋が、ブックオフに本を買いに来る?
坂本 たとえば、手塚治のサインが書かれた初版本のような希少本でもブックオフにはたとえば105円で売っています。うちの単純なルールでは「書き込みがあるのは汚くて評価できない」ということになります。有名作家のサインだろうが、何であろうが、それがブックオフの価格ルールです。だから、ブックオフの105円コーナーには、お宝がいっぱいあるんですよ。それを狙って古本屋が来ます。中には、105円で仕入れた本をオークションに出して、高く売って、生計を立てている人までいるらしいですよ。
西岡 へぇー。それは驚いた!中古の本を使っていろいろなビジネスが考えられそうですねぇ。
――― 人のつながり ―――

坂本 話は変わりますが、先日のEOYのイベントで西岡さんのパネルに出られたホーブの高橋さんが北海道に誘ってくれましてね。タリーズの松田さんも一緒に、西岡さんも行きませんか?
西岡 いいですね!ちょうど僕も、面白いことをやっている各地の中小企業や工場を見て回わろうと思っていたところです。それにしても、高橋さんっていい方ですよね。
坂本 EOYのモナコ大会へも、私じゃなく高橋さんが行くべきだったと思うんです。1年に1回しか自分たちの成果を試すことのできない農業で頑張るようなベンチャーがたくさん出てくると、日本でも自給自足が可能になりますしね。
西岡 まして、日本は減反制度なんていう馬鹿な政策があって農業を大切にしてこなかった。ちっぽけな役人の馬鹿な考えで日本は食料の自給自足も出来なくなりました。農業のベンチャーは貴重な存在ですね。オーストラリアなどでは、農業の工業化が進んでいて、土を使わずに農作物をつくっていますが日本は農業後進国になってしまいました。
坂本 米の工場が世田谷にあってもいいですよね。駒沢公園のあたりとか。

――― 趣味 ―――

西岡 ところで、坂本さんの趣味は何ですか?
坂本 学生時代は、男声合唱団をやっていました。
西岡 そうそう。坂本さんとは、カラオケで「白いブランコ」をハモルんですよね。僕が「白いブランコ」を歌おうとしたら、坂本さんが「それは僕の歌だから下を歌う!」って(笑)。
坂本 三枝成彰さんや羽田孜元さんが六本木合唱団倶楽部というのをやっているでしょう。僕も、銀座合唱団をつくろうと思って、小椋桂さんに「ぜひ、タクトを振ってください」とお願いしたいんですよ。彼を引っ張り出して、ここの3階で練習しようと、グランドピアノまで入れちゃったんですよ。
西岡 僕もメンバーに入れてくださいね。
坂本 もちろんですよ!
西岡 最近の十八番は、さだまさしの『風に立つライオン』でしょう?
坂本 そう。「昔、君と見た千鳥が淵の夜桜が恋しくて・・」という春の歌。実に、いい歌詞なんですよ。
西岡 さだまさしの曲って、キー高くて難しいですよね。谷村新二さんの『群青』も、よく二人がバッティングしますよね。
坂本 そうそう。西岡さんは、尾崎豊さんの『アイラブユー』を狙ってるんでしょう?知っています(笑)。

――― 夢 ―――

西岡 最後に、坂本さんの夢を教えてください。
坂本 “本”と“中古”というキーワードで展開してきたビジネスノウハウを海外で成功させたいんです。ニューヨーク、パリの店では、日本から持ち込んだ本と現地で仕入れた日本語の本を売る、というモデルはすでに成功させたので、こんどは「英語館」と「フランス語館」をつくろうと考えています。こういう店は、まだ海外にもないですしね。
西岡 いけそうですね。
坂本 でしょう? で、隣には、吉野家とCOCO壱番かなと。コーヒーもそうだけど、海外から持ち込まれたものばかりが目立ちますでしょう。日本で培ったノウハウや文化を海外へ持ち込んだら面白いかなと。
西岡 日本から発信するビジネスイノベーションですね。米国は新刊の規制が少ないから、新刊でも安く売っているのはリスクファクターですね。けれど一方で、海外の人たちのほうが日本人より古いものを大切にしますし。これは、うまくいくかもしれませんね。
坂本 それで、タリーズの松田さんにも「知恵を貸してください」って相談したんですよ。うちと組むのは、スターバックスじゃないでしょう?
西岡 それは面白い!そのためにも、6月の北海道行き、ぜひ決行しましょう!人と人とのつながりが、また新しいつながりを生んで、どんどん日本を良くしていかないと。私たちには、そういう責任がありますよね。今日はありがとうございました。


坂本 孝さんのProfile
山梨県甲府市生まれ。1963年、慶応義塾大学法学部卒業後、父親が経営する精麦会社に入社。その後全農などと配合飼料会社を設立。取締役として経営に携わる。1970年にオーディオショップを開業するが、経営に失敗。会社清算後、中古ピアノの販売を手掛ける。1990年、中古本販売のBOOKOFFを開業。翌1991年、ブックオフコーポレーション株式会社を設立し、社長に就任。現在に至る。

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